メイン堂々逃げ宣言

 柴田善騎手に気合を注入されたアドマイヤメイン(牡3、栗東・橋田)が、堂々の逃げ宣言とともにディープインパクトに立ちはだかる。有馬記念(G1、芝2500メートル、24日=中山)に向けて中山競馬場で行われた最終追い切りは、長めから追われる意欲的な内容。柴田善がゴール後もステッキをたたき込むほどのハードメニューで、臨戦態勢を整えた。

 ゴール前、約50メートル。直線を向いたところから追い続けてきた柴田善騎手が、右ステッキを1発、2発、3発と打ち下ろす。ゴールをすぎてからも駄目を押すように、さらに1発。ラスト1ハロンは12秒2で走り抜けたが、その速度を保ったままで1角を通過し、徐々に減速した。序盤、7ハロン標からハロン15秒台のラップを刻んでおり、1周約1500メートルのダートコースをフルに使った内容の濃い追い切りとなった。

 地下馬道を引き揚げてきたメインは呼吸を荒らげるようなこともなく、息遣いは文句なし。前日もダートコースを3周、芝コースを1周していたように、豊富な調教量に裏打ちされた心肺機能はピークまで鍛えられている。香港遠征を終え中山競馬場で着地検査中とあって、入厩中の国際厩舎にはほかにアドマイヤムーンしかいない。のんびりムードが漂っていたが、この追い切りで精神的にも戦闘モードへ入ったはずだ。

 馬から下りた柴田善は「馬が『アレ? 今日追い切りをやるの』というような感じだったのでビッシリ行った。これで気持ち的にも変わってくると思う。もともと能力はあるし、春先に比べると馬体もしっかりしてきた。感触は悪くないよ」と手応えを話した。

 天候もメインを後押しする。21日夜から22日にかけて若干の降雨はありそうだが、週末は好天が予想されている。レース当日はパンパンの良馬場になるのは確実で、同馬の持ち味であるスピードがフルに生かせるのは間違いない。前走の香港ヴァーズ8着の敗因は慣れない環境に戸惑ったのもあるが、レース直前のコースへの散水も影響した。年末の大一番が雪辱の舞台となる条件はそろっている。

 柴田善も「ダービーは馬場が渋ってスッと行けなかったからね。今の中山は馬場がいいし、天気にも恵まれそう。思い切った逃げで逆転を狙うよ。ディープに楽に勝たせたら面白くないもんね」と、けれん味のない先行策を宣言した。無敗の王者が初黒星を喫した昨年のグランプリ。その再現の鍵は、今年のダービー2着コンビが握る。




横山典「付け入るすきある」

 スウィフトカレントに騎乗する横山典弘騎手(38)は言った。「白旗は揚げない。付け入るすきはある」。打倒ディープインパクトのラストチャンス。穏やかな表情の裏で、心の中は熱く燃えている。

 3度インパクトの2着となったジョッキーは、ただ1人。「強い馬をどうやって負かそうかと考えるのは、いつも楽しかった」。最内からの強襲策で首差まで追い詰めた昨年の弥生賞、早めのスパートで3冠を脅かした菊花賞(ともにアドマイヤジャパン)。そして、今年の天皇賞・春リンカーン)。あと1歩届かなかったが、常にこん身の騎乗で英雄を苦しめた。

 ジャパンCでは1秒0の差をつけられたが、手応えはある。「(インパクトは)東京では能力を余すことがない。でも、中山だったら…」。国内唯一の黒星は昨年の有馬。紛れのあるコースなら、あっと言わせられないことはない。

 コンビを組むスウィフトは、逆に中山が歓迎だ。「東京の直線だと脚が続かない。折り合えばこの距離でもはじける馬だし、中山ならごまかしが利く」。直線強襲劇に最後の夢を託す。





ムーン体調戻り切らず回避

 有馬記念に登録のあったアドマイヤムーン(牡3、栗東・松田博)は21日朝に回避を決めた。香港C2着後に帰国し、白井の競馬学校で検疫し中山競馬場へ入厩。出馬投票期限の21日まで出否が熟考されたが、状態面がひと息で断念した。松田博師は「体調が戻り切らなかった。微熱もあったようなので回避を決めた」と語った。着地検査終了後は、山元トレセン経由でノーザンファームへ放牧に出される。始動戦は未定。




瀬戸口師サムソンで有終

 メイショウサムソン瀬戸口勉師(70)は最後のグランプリを前に雑念を捨てた。「数字を気にしていても仕方ない」。調教後の計量ではクラ(約6キロ)を置いて532キロ。絞り切れない現状だが「見た目は非常にいい。体重を気にしてカイバを減らしては力が出ない」。34年間積み重ねてきた自らの感覚を信じた。

 16年前と同じ心境に、たどり着いた。「やるだけのことはやった」。90年、奇跡の復活でラストランを飾ったオグリキャップは、師のキャリアを代表する一戦。「調子は良くなかったが、脚を蹴り上げる癖が出ていた。あの馬が走るときの癖。終わったといわれていたが、手応えはあった」。周囲の低評価に惑わされず、自らの眼力を信じた。ここもベストを尽くした以上は、馬の力を信頼する。

 来年2月で定年となる瀬戸口師にとって、今回が最後の有馬記念だ。「最後に出せて良かったという気持ちはある」。オグリ以来の競馬ブームを巻き起こしたディープインパクトの引退レースというのも因縁を感じる。だが、インパクト一色にするつもりはない。「今のスターは、ずっと勝ち続けた馬。オグリは負けて負けて、最後に勝った」。オグリがそうだったように、今度は瀬戸口師が自らの引退の花道を飾る番だ。





ダービー2勝の松山吉三郎元調教師死去

 ダービー2勝の元JRA調教師、松山吉三郎氏が20日午後5時10分、病気のため死去した。89歳。松山氏は29年に騎手見習いとして名門の尾形藤吉厩舎に入門。ジョッキーとして活躍した後、50年に調教師免許を取得し東京競馬場所属で開業した。その直後から数々の名馬を育て、52年に名牝スウヰイスー桜花賞オークスの2冠を制覇。62年にフエアーウイン、86年にダイナガリバーでダービーを優勝。さらに60年スターロッチ、86年ダイナガリバー有馬記念を勝つなど8大競走10勝、重賞55勝、通算ではJRA史上第2位の1358勝を挙げている。子息の松山康久師も83年ミスターシービー、89年ウィナーズサークルでダービーを制し、父子ダービー2勝の偉大な記録を樹立。94年2月に定年を迎え調教師を引退した。葬儀告別式は27日正午から府中市浅間町1の3、府中の森市民聖苑第3式場で行われる。喪主は妻ナカ子さん。