ナイト武士沢が夢の頂点へ

ディープ 元気一杯!!

 デビュー10年目の武士沢友治騎手(28)が、トウショウナイト(牡5、保田)で初のグランプリに挑戦する。乗り替わり、骨折…。苦労を重ねた人馬が、やっとつかみ取った大舞台。強敵相手でも、そう簡単には引き下がれない。
 人馬ともに初めてとなる有馬記念が迫っている。しかし、武士沢騎手を包み込む空気はとても穏やかだった。プレッシャーより、トウショウナイトと挑戦できる喜びにあふれていた。「ナイトとともに(有馬記念に)出られなければ意味がなかった」。
 小さいころから、強い意志があった。騎手になるきっかけは競馬好きのいとこだった。「体が小さいからジョッキーになればって。中1の時、騎手になろうと決めた」。体操をやっていた父の美友(よしとも)さんの血を受け継いでいたので体は柔らかかったが、青森県の実家のそばには牧場はなく、馬に乗る機会はなかった。「高校で馬術を1年経験して競馬学校を受けようと思ってね」。馬術で有名な三本木農業高校へ入学した。
 夢だった騎手の世界は想像していた以上に厳しかった。勝負の世界。血縁者もいない。自分が乗って勝っても、トップジョッキーへ手綱が渡されることも少なくない。落ち込むことはあったが、腐ることはなかった。悔しさを振り払うように調教に励んだ。癖のある馬もたくさん乗った。バック転やバック宙ができるほど体が柔らかい。その特徴を騎乗にも生かした。ソフトな当たり。「力で制御してはいけないんだなって。あのころ、いろいろ考えながら乗っていた時期は無駄ではなかった」。
 ナイトは口が敏感で、気持ちが左右される面が非常に大きい。「やっぱり、自分があの馬についていくような感覚でいないと」。物見をして危ない目に遭いそうなこともあったが、それでも手綱を引っ張ることはしなかった。目の前まで来た重賞タイトルが、すり抜けたこともあった。ナイトの骨折による長期離脱。乗り替わった時期もあった。「勝っても不安はつきまとっていたから、乗り替わった時、正直心はモヤモヤだった。でも、しばらくしたら、トップジョッキーはどういうふうにあの馬を動かすのかな、って見ることができた」。自分の手元に戻ってくるかは分からなかったが、信じていた。周囲の助けもあり、ナイトは戻ってきた。
 「つらい時期があるから今があるのかもしれない。ナイトは特別な存在。出会えて良かった」。24日。初めて挑むのグランプリで、楽しそうにターフを駆ける武士沢とナイトの姿が目に浮かぶ。




初GP内田博「全馬チャンス」

 18日の浦和競馬で年間勝利数の日本新記録506勝を達成した内田博幸騎手(36=大井・荒井隆)が、ジャパンC2着のドリームパスポートと新コンビを組む。もちろん目指すは打倒ディープインパクトだ。19日には白星を2つ重ね、現在508勝。地方と中央の垣根を越えて休む間もなく活躍する超人が、初のグランプリにかける意気込みを熱く語った。
 ドリームパスポートは、先行しても後ろから行ってもいい脚を使う、という印象を持っています。自在性があって、競馬がうまい。どんな流れにも対応できる力のある馬だと思います。末脚が切れるのは折り合いがつくということだし、乗りやすい馬なのでしょう。
 地方騎手として、有馬記念という大舞台に騎乗できるのは光栄です。ジャパンC2着馬に乗せてもらえるのですから、ジョッキー冥利(みょうり)に尽きます。また、ディープインパクトと一緒のレースに出られるのは幸せなことです。
 インパクトは実績が示す通り、これだけの馬はそうはいません。普通の馬では届かない位置からでも差すことができる。長くいい脚が使えて、しかも切れる。レースぶりが素晴らしいですね。しかし、競馬ですから絶対はありません。負けることもあるでしょう。レースの勝ち負けには運がつきもの。出走する全馬にチャンスがあると思います。
 それでも、インパクトを負かしにいくことは考えていません。ジョッキーが勝ちを意識し過ぎると、馬は敏感なので負担が掛かるものです。馬の行きたいように任せ、無理させる乗り方はしない。ドリームパスポートの持ち味である瞬発力を引き出すことだけ考えて乗ります。100%持てる力を出せれば、結果はついてくるでしょう。
 中山芝2500メートルは、馬群に包まれてゴチャつかないよう、各コーナーをスムーズに回りたい。位置取りはスタート次第で、特に考えていません。いいスタートを切って好ポジションを確保できれば、それにこしたことはありません。道中は折り合いに専念していいリズムで進み、脚をためて直線に向かいたい。
 今年の目標だった最多勝日本新記録を達成し、自分としてもいいリズムで有馬記念を迎えられる。ドリームパスポートは人気になると思うし、いいレースをして期待に応えられるよう頑張ります。




マースが3カ月ぶり実戦

 阪神メーンのラジオNIKKEI杯2歳S(G3、芝2000メートル、23日)で、札幌2歳Sの覇者ナムラマース(牡、栗東・福島信)が3カ月ぶりの実戦を迎える。距離1800メートルを主戦場にしてから目下3連勝中。来春のクラシックも見据える素質馬は、2000メートル戦でさらなる白星を狙う。
 2歳王者決定戦の朝日杯FS(G1、芝1600メートル)には見向きもしなかった。「距離を長くして結果が出ていたし、忙しい競馬よりこの距離の方が合う」。福島信師は予定通りの調整に笑みを浮かべる。今回は、クラシックを目指すライバルが多数参戦する。「ここでいい競馬をするようなら、意識しないわけにはいかんでしょ」。福島信師は春につながる内容を期待していた。